物語る亀

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物語愛好者の雑文

99分世界美味めぐり 感想 食という芸術

 『99分世界味めぐり』の映画を見てきたのでその感想を書いていく。

 

 食というものはこの世に生きる全ての人間が行わなければならない、極めて重要な行為だ。性欲は強い戒律により規制することができたとしても、食う、出す、寝るの三つはどんな思想、環境下であったとしても誰もが一生のうちに何万回と繰り返す行為である

 しかし現代の人類の比較的裕福な層にとって、それは単なる生命維持のための行為ではない。美味しいものを食べることによって舌を踊らせ、同じテーブルを囲むことで仲間意識を確認し、思い出を共有することでそこにいた人物だけの特別感を演出する。そのために人は高いお金と労力を払ってレストランや定食屋に出かける。

 これだけたくさんのレストランがあると、当然美味い店もあれば不味い店もあり、そこに格が生まれる。するとその格を評価する者たちが必ず生まれる。

 

 

 ミシュランがタイヤメーカーにもかかわらずミシュランガイドを作ったのは、人々が車で旅行することによりタイヤを消耗させるための旅行ガイドブックだと言われている。それが今では世界中に覆面調査員を派遣し、世界中の料理を鑑定し、格付けを行う世界一のガイドブックにまで成長した。

 少し前まではガイドブックを作れるほどの企業が中心として美味しい店を紹介し、一般人がそのガイドブックに従い行動するのが常だったが、現代ではネットの登場によりさらに進化して、今では有名な個人ブロガーがお店の売り上げに影響するほど大きな発言力を獲得している。(私もはっしーのブログはよく読んでいる)

 その美食ブロガーに焦点を当てたのが本作である。

   

 出てくるのは五人のブロガー

 世界中の三つ星レストランを制覇した唯一の人物や、辛口で知られるレストラン評価サイトの運営者、モデルの美女、普通のOL新人ブロガーの女性と、香港の男性ブロガー。

 その五人が世界中のお店に回り、その味を批評していく様は確かに評論家そのもので面白いものがある。特に三つ星レストランを制覇したおじさんはこき下ろすようなこともたくさんいうが、それは人によってはアドバイスにもなっている。受けいられるかは別として、そのコメントは普通のお客さんでは何も言わずに黙ってしまうために、お店側からしたらそれはそれでありがたいものだろう。

 

 辛口評論家のおじさんは時に「史上最悪の味」とこき下ろしてシェフと喧嘩をすることもあるが、その見た目もあってか、少しは好感を持たれているようにも見える。(当然そういうシーンを採用しただけかもしれないが)

 とにかくこの二人の印象が特長的で、非常に面白いものであるために他のブロガーが霞んでしまう。モデルの美女は日本に来ていることもあり、その美貌もあってこちらの目を引くが、新人ブロガーになると「本当にこいつ分かってるのか?」と不安になるような描写すらある。

 

友人として一緒に食事に行きたいのは美女であり、またOLや青年ブロガーだが、参考にするならばやはりおじさんの辛口こみのブログだろう。これほど辛口の人が絶賛するというならばと誰もが思うに違いない。

 ただ気になったのはこのある種のプロの料理評論家であるブロガー達の食べ方があまりきれいだと思えなかったことだ。食事を評論するプロだというのであれば、一流の客であるように振舞ってもらいたい。

(これは粋の文化の日本人らしい意見かもしれない)

 

 しかし、私はもともとこの映画を『二郎は鮨の夢を見る』の系統だと思って行ったが、実はグルメブロガーの話だったのには少し拍子抜けしてしまった。いや、多分チラシにもブロガーの話と書いてあったので悪いのは私なのだろうが、その職人の作り出す料理の美しさ、斬新さを映像で見せつけられると涙が出るほど感動する人間としては、正直ブロガーの有り様や意見というのはどうでもよくて、せっかくの世界最高級レベルのレストランの料理一つ一つをもっと映してほしいと思う。

 その意味では少し残念だった。

 それから問題提起の場面でも、飢えている人もいるにも関わらず、飽食や贅の極みとも言える美食文化というものは果たして許されるべきか? という問いもあったのだが、いかんせんそれが問題提起として弱く見えてしまった。結局この映画はブロガーの持つ強大な影響力という新しいジャーナリズムを特集するための映画であって、料理や食事文化を研究する映画ではない。

 

 ただ世界中のレストランの様子がわかったし、三つ星レストランといってもそこまで堅苦しい店ばかりではなく(日本の三つ星は極端に堅苦しく見える)、賑やかで楽しい雰囲気は伝わってきた。(これも日本は全く賑やかさがなく、急に店内が静かになる)

 どこかしらのお店には行きたいな、と感じさせてくれたし、そのために旅行をするという意味もよくわかる。食べることに興味がある人が見ていて損はない映画だったと思う。

 ただ、やはり私は『食いしん坊』ではあっても、『美食家』『グルメ』と呼ばれるような人間にはなれそうもないな、と痛感した一作でもある。汚い町の居酒屋や蕎麦屋で食べる飯も三つ星とは違うが美味いもんだよ。

 

 

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